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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9932号 判決

原告

有限会社清水製作所

ほか一名

被告

林和雄

主文

一  被告は原告有限会社清水製作所に対し金四四万四五八四円、原告清水邦夫に対し金三万五〇〇〇円およびこれらに対する昭和五一年三月二日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決第一項は、かりに執行することができる。

事実

原告らは「被告は原告有限会社清水製作所に対し金六九万九四〇六円、原告清水邦夫に対し金一〇万円およびこれらに対する昭和五一年三月二日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一  被告は昭和五一年三月一日午前〇時四〇分頃、宮城県栗原郡金成町有馬字有壁下大沢田地内先路上を普通乗用自動車(岩三さ四五三号、以下、被告車という。)を運転して進行中、現場は片側一車線の狭い道路であり、かつ、折からの積雪により路面が滑りやすくなつていたのであるから、速度を減じ前方に十分注意して進行すべきであるのに、これを怠つて漫然時速約六〇キロメートルで進行した過失により、自車の前方を時速約一〇キロメートルで進行していた原告清水邦夫(以下、単に原告清水という。)運転にかかる原告有限会社清水製作所(以下、原告会社という。)所有の普通乗用自動車(足立五五む二二〇九号、以下、原告車という。)の後部に自車を衝突させ、よつて原告清水に全治一三日間のむち打傷を負わせ、原告会社所有の原告車およびその積荷を破損させた。

二  右原告清水の受傷および原告車破損等による損害の数額は次のとおりである。

(一)  原告会社の損害

1  原告車修理代 三六万四八九〇円

2  積荷の損壊による損害 一〇万九五一六円

原告車に積載していたステレオ用フロントデツキ八三六台(単価一三一円)が破損した。

3  原告車修理期間中の代車料 七万五〇〇〇円

4  弁護士費用 一五万円

原告会社は原告ら訴訟代理人に対し本件訴訟の着手金五万円を支払い、成功報酬として一〇万円を支払う旨約した。

(二)  原告清水の損害

1  慰藉料 一〇万円

原告清水の前記受傷に対する慰藉料としては一〇万円が相当である。

三  よつて、被告に対し原告会社は六九万九四〇六円、原告清水は一〇万円およびこれらに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五一年三月二日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

被告は本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされた答弁書には大要次のような記載がある。

本件事故は、原告が当時真冬同様の気温で路面は凍結していたのであるからスパイクタイヤ等を装着する必要があつたのに普通タイヤのままで原告車を運転し、さらに、事故現場は下り坂の危険な場所であり被告車が後続していることはバツクミラーと被告車のライトの光で確認可能であつたのに、凍結路面でブレーキが効くかどうかをテストするために急ブレーキをかけて原告車を道路いつぱいに転回させながらスリツプさせて被告車の進路を妨害したため、スパイクタイヤを装着し完全な冬装備をしていた被告車をもつてしても追突を回避することができなかつたもので、被告にとつては不可抗力の事故であり、このことは当時原告が被告に対し謝罪の意思を表明していたことからも明らかである。

よつて、被告は原告の請求に応ずることはできない。〔証拠関係略〕

理由

一  その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証、同第七号証、原告清水本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第二号証、同第六号証、同尋問結果によつて原告車の破損状況を撮影した写真であると認められる甲第五号証の一ないし四および同尋問結果を総合すると、昭和五一年三月一日午前〇時四〇分頃、宮城県栗原郡金成町有馬字有壁下大沢田地内の国道四号線を原告清水が原告車を運転して一関市方面に向つて進行中、折からの積雪で路面がすべりやすくなつていたのにチエーンが切れて普通のラジアルタイヤのままで走行していたのでブレーキの効き具合を確かめるためにブレーキを踏んだところ原告車がスリツプし、原告清水がハンドル操作で態勢をたてなおそうとしている間に速度が落ちた原告車の運転右後部に被告運転の被告車が追突し、右事故のために原告清水は翌二日から同月一三日までの間に三、四日間の通院加療を要した頸椎捻挫の傷害を受け、原告会社所有の原告車が破損したことが認められる。

二  前認定の事故状況によると、被告には積雪という道路状況にあつても先行車の動静に応じて安全に停止できるような速度と車間距離を保持し前方に十分注意して進行すべきであるのにこれらの注意義務のいずれかを怠つた過失があつたものと推認されるので、被告は本件事故によつて原告清水および原告会社が受けた損害を賠償する責任がある。

三  そこで、以下において原告会社および原告清水が受けた損害の数額について判断する。

(一)  原告清水の損害 五万円

前認定の原告清水の受傷内容および治療経過に鑑みると原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するのに相当な額は五万円と認められる。

(二)  原告会社の損害

1  原告車修理代 三六万四八九〇円

原告清水本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第四号証および同尋問結果によると、原告会社は本件事故によつて破損した原告車を東京藤自動車株式会社で修理して同会社に修理費として三六万四八九〇円を支払い、同額の損害を蒙つたことが認められる。

2  積荷の破損による損害 一〇万九五一六円

原告清水本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第三号証および同尋問結果によると、原告車には原告会社がゼネラル電子工業株式会社に一台一三一円で納入することになつていたステレオ用フロントデツキを一四八六台積んでいたが、本件事故のためにそのうち八三六台が破損して納入不能となり、一〇万九五六〇円相当の損害を蒙つたことが認められる。

3  原告車修理期間中の代車料 七万五〇〇〇円

原告清水本人尋問の結果によると、原告会社は原告車の修理期間中代車を使用し、代車料として合計七万五〇〇〇円を支払つて同額の損害を蒙つたことが認められる。

四  被告は、本件事故は原告が凍結した路面でブレーキテストをして原告車をスリツプさせ被告車の進路を妨害したために発生したものであると主張しており、右主張には過失相殺の主張が含まれていると解されるので判断するのに、前認定の事故状況によると、本件事故発生については原告清水にも後続車があるのに積雪してすべりやすい道路でブレーキテストをして原告車をスリツプさせ後続車である被告車の進行を妨害した過失があると認められるので(原告清水本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し得ない。)、過失相殺として前示損害額から三割を減ずるのが相当である。

五  原告清水本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると原告らは原告訴訟代理人に本訴を委任し、原告会社において着手金五万円、報酬一〇万円を同代理人に支払う旨約束していることが認められるが、本件事業の性質、審理の経過、認容額に照らすと原告会社が本件事故による損害として被告に賠償を求め得る弁護士費用の額は六万円と認めるのが相当である。

六  そうすると、原告らの本訴請求は被告に対し原告会社において四四万四五八円、原告清水において三万五〇〇〇円およびこれらに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五一年三月二日から各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

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